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2022.10.31

人事データ利活用に関する留意点〜人事データ利活用原則改定について〜

 人事データ活用は、人事課題を解決し従業員をサポートするのに非常に有効ですが、間違った使い方をするリスクや法的・倫理的観点から留意すべき点が存在します。

 2022年4月に改正個人情報保護法が施行(※)され、データを保有する個人の権利が強化される一方、仮名加工情報についての義務が緩和されるなど、適切にデータ利活用を促進する指針が示されました。弊社宗宮が研究員を務める一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会でも、昨今のデータ利活用に関する法令や社会的な要請に基づき、2022年5月に「人事データ利活用原則」を改訂し、特に人事データ利活用時に留意すべき原則を公開しています。

人事データ利活用原則の主旨

 人事データ利活用原則は、社会に受け入れられる「ピープル・アナリティクス」や「HRテクノロジー」の姿をチェックリストとして示すもので、今回原則が一つ追加され、以下の10原則を提言しています。

    1.  データ利活用による効用最大化の原則
    2.  目的明確化の原則
    3.  利用制限の原則
    4.  不適正利用禁止の原則
    5.  適正取得原則
    6.  正確性、最新性、公平性原則
    7.  セキュリティ確保の原則
    8.  アカウンタビリティの原則
    9.  責任所在明確化の原則
    10.  人間関与原則

2020年3月19日の制定時には、「個人情報を含む人事データを利用したプロファイリング」が対象となっていますが、今回は「人的資本情報の可視化・開示、プロファイリング等を始めとする様々な人事データの利活用」といった記載に変わっています。

 もともと、2010年代前半のAIブームの頃は、AI・機械学習を活用した退職リスクや活躍予測を行うことが盛んでしたが、昨今は現場の人事が多様なデータをBIツール等を活用して基礎的な集計や可視化を行いながら、仮説検証を行う形が増え、従来のAIプロファイリングを主眼としたものから、より広義な人事データ・人的資本の活用に関する視座への変化に対応したものといえます。

人事データ利活用原則の主な修正点

 大きな変更点として、「4.不適正利用禁止の原則」が追加されたことが挙げられます。

アメリカにおけるBLM運動や、男女機会均等に向けた取り組みなど、ダイバーシティに関する議論が活性化し、差別的な処遇に対する社会の目は、いっそう厳しくなっています。AIなどのプロファイリングについても、なぜその結果がでてきたのかわからないといったブラックボックス問題など注意すべき点は多く、テクノロジーによる差別を未然に防ぐ対応が求められています。プロファイリングの実施には、背景や目的と照らし合わせた、より適切な運用が求められるようになりました。

4. 不適正利用禁止の原則

  • ・違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により個人情報を利用してはならない(法19条)。

  • ・プロファイリングの目的や得られた結果の利用方法等を踏まえて個別の事案ごとにプロファイリング利用の可否を判断しなければならず、プロファイリング実施時点において事業者の業務において要求される一般的な注意力をもってプロファイリング利用の可否を個別的に判断しなければならない。

  • ・人種、信条、性別、社会的身分又は門地等に基づく差別的プロファイリングになっていないかについては、特に留意する必要がある。

 

 その他の主な修正点として、「2.目的明確化の原則」では、「人事データから従業員等に関する行動・関心等の情報を分析する場合には、どのような取扱いが行われているかを本人が予測・想定できる程度に利用目的を特定しなければならない」という文言が追加になり、データ利活用の際にはきちんと同意がとられていること、目的外利用をしていないことに注意する必要があります。

また、「3.利用制限の原則」では、「Cookieやインターネットの閲覧履歴等の個人関連情報は、従業員等のプロファイリングに用いることも考えられるところ、このような情報を第三者に提供する際に、提供先において個人データとして取得することが想定される場合は、原則として本人の同意が得られていることを確認しなければならない」と、Cookieやインターネットの閲覧履歴と個人情報の紐付けについても言及されています。

以前、大手採用サービスが内定辞退予測を行った際にCookieを活用した個人情報の紐付けが問題になりましたが、テクノロジーの発展とともにデータの種類・量が増大している中で、闇雲にデータを活用することは、引き続き注意が必要といえます。

 以上のような人事データ利活用に関するガイドラインは、GDPRや総務省のAI利活用ガイドラインなど、さまざまな場で策定されています。各々で共通しているのは、個人の権利を大切にするという人間中心の考え方です。これらの人事データ利活用原則や自社のポリシーとも照らし合わせて、人事データの活用を推進することが求められています。

 

出所:個人情報保護委員会「令和2年 改正個人情報保護法について」

https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/kaiseihogohou/

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