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2022.05.17

求められる人的資本の開示
〜人的資本とHRテクノロジー・ピープルアナリティクスの融合〜

情報開示への注目

 持続可能な社会の実現に向けて、企業のSDGs対応が必須となるなか、様々な企業の取り組みについて情報開示が義務付けられるようになり、統合報告書やサステナビリティレポートで人的資本情報を開示する企業や、中期経営計画で目標値を定める企業も増加しています。人事においてもこれらに対応し、人的資本を強化していくことが求められています。

人的資本情報の開示が注目されている背景

 人的資本に関する情報開示が求められるようになった背景として、先に述べたSDGs対応に関連してESG投資がグローバルに加速し、企業価値を把握するために非財務情報が重要視されるようになったことが挙げられます。

 近年の日本では、以下のような制度や基準の影響もあり、人的資本情報の開示が急速に進んでいます。

2020年8月:

米国SECが上場企業に人的資本情報開示を義務化。ISO30414等の基準の整備も進む。

2020年9月:

人材版伊藤レポートで、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値の向上につなげることが提言される。

2021年6月:

プライム市場の基準の一つとなっているコーポレートガバナンス・コード(CGコード)において、取締役のダイバーシティや人的資本投資への言及等、人的資本開示が求められる。

2021年11月:

岸田内閣の主導する「新しい資本主義実現会議」で、人的資本への投資を抜本的に強化するための政策を打ち出すことが盛り込まれ、人的資本投資への議論が活発化。

 また、海外の取締役会でも、優先的な課題として、コロナ対応や気候変動対応と並んで人材に関するトピックが挙げられるなど、経営における3つの要素「ヒト・モノ・カネ」のうち、ヒトについても、企業の状態や成長可能性を図る指標として、情報開示が促進されています。

 

出典:経済産業省

 

出典:「人的資本経営に関する調査について」(経済産業省)

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/seminar02.pdf

 

情報開示による効果

  人的資本に関する情報開示では、基準の一つであるISO30414でも、内部向け(従業員等)と外部向け(株式市場、労働市場、社会全般)に、適切な方法での開示と対話を行うことが推奨されています。

 特に投資家は、企業の中長期的な投資・財務戦略において、IT投資や研究開発投資と並んで、人材投資を重視しているという調査結果もあり、投資家向けの開示は、プライム市場の基準にも設定されるなど、非常に重要な要素となっています。

 情報開示による効果としては、主に「企業価値の向上」が挙げられます。例えば、ダイバーシティ&インクルージョン、育児サポート等の働き方のフレキシビリティ、エンゲージメントや健康促進への取り組み、従業員のスキルアップへの取り組み等は、人的資本の評価を向上させ、マーケットにおいてポジティブインパクトをもたらすと予想されます。また、ESGの文脈でも注目されている「奴隷労働を排除しているか」「過重労働を課していないか」「コンプライアンスやガバナンス面でリスクマネジメントができているか」といった要素は、ネガティブインパクトの低減効果が見込まれます。

 

出典:金融庁

 

出典:「第1回金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ」事務局説明資料(金融庁) 

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/disclose_wg/siryou/20210902/03.pdf

 

企業が取り組むべきこと

  • 企業価値向上に向けた人的資本情報の開示と分析のすすめ
  • 企業・人事に求められるデータマネジメントと可視化

 ここまで人的資本情報開示の重要性について述べてきましたが、企業としては、人的資本のデータを収集・集計し、可視化・開示することへの対応だけでなく、より踏み込んで「どういった経営・人材に関する指標(KPI)を重視しているか」「人材戦略がどのように企業価値の向上に寄与するのか」について明示することも望まれています。

 そのためには、経営と人材に関する戦略を明確にし、KPIの設定に取り組むべきでありますが、目指すべき水準を定めるにあたっては、データをさらに分析し活用していくことが重要となります。

 一方で、人事におけるデータ活用は、データマネジメント人材やDX人材の不足、ノウハウの欠如によって、対応が遅れている現状があります。

 今後は、人的資本情報を開示して、人材に関する考えをストーリーとして表現し、取り組みの進捗を報告することで、企業価値向上に向けた対話を進めつつ、適正なステップでデータ活用を行うことができるデータドリブンな組織を構築することが必要となります。

 幸いにも、BIツールや統計解析ツール、タレントマネジメント等のHRテクノロジーシステムの拡充によって、データ集計・分析は容易になり、従業員のリスキリングや人材の最適配置に対応することも可能になってきています。加えて、データ活用のベストプラクティスや注意点が整理されつつあるため、人材の確保が難しい場合には、将来の内製化を見据えて外部のコンサルティングやHRテクノロジーサービスを適切に活用していくことも、選択肢の一つになってくるでしょう。

 今、まさに求められていることは、人的資本の強化に向けた人的資本情報の開示・分析への投資だといえます。

 

 

参考:

経済産業省 人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html

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